『変な音』(夏目漱石)

●夏目漱石の短編『変な音』

共鳴のテクニックを高める朗読トレーニングに、夏目漱石の『変な音』を使いましょう。

冒頭部分をPDFファイルにしてこちらに用意したので、ダウンロードしてお使いください。

共鳴の感覚は、ある程度の高さで、ある程度の声量で長く伸ばした声であれば、捉えやすいでしょう。

ところが、普段の会話では、高さも歌ほど高くないし、声量もビンビン張り上げるわけではない。しかも、一つ一つの音が短い。

なんと、響きを捉えるための条件がことごとく厳しくなるわけです。まるで三重苦ですね。

だから、歌えばキレイに響かせられる人も、会話になった途端、なんだか響きに乏しい、生っぽい喉声になってしまいます。

でも、がっかりしないで、逆に考えましょう。「できるようになったら、多くの人にはできない特殊技能が身につく」と。

丁寧にじっくりと、時間をかけて練習するから、大丈夫です。

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話し方と言霊(ことだま)の関係とは

●言霊(ことだま)に対する適度なスタンス

日本には昔から「言霊」(ことだま)という考え方があります。

言葉が現実になる、という思想ですね。

言霊をどのくらい強く意識しているかが、話し方に影響を及ぼします。

言霊の意識が強ければ強いほど良い、というわけではありません。

ここは最も大事なところですから、正確に読んでください。

強すぎれば迷信に縛られやすくなり、地に足のついていない、非現実的な感覚の話し方になりかねない。

「4は死、9は苦」だからと4号車や9号室を飛ばして番号を振るケースはあるし、日本社会では一定の理解も得られるものの、「し」と「く」の音を含む言葉をすべて避けたくなったら、明らかに行き過ぎでしょう。

ネガティブな印象を与える言葉や文字に過敏になって、「メロスは激○した」「王様は人を○します」のような伏字を連発するかもしれません。

良い話し方、良いコミュニケーションにつながるスタンスは、もう少し精妙なバランス感覚を要します。

次の2点に気をつけて、良い話し方を目指しましょう。

1. 「言霊」的なマイナス影響に自分は過敏にならない

受験の前に「滑る」「落ちる」といった言葉を聞いて、発言者をなじるほど本気で嫌がるとしたら、過敏です。

他人の言葉に過敏に反応している暇があったら、受験にプラスになる勉強をしたほうがどれほど合格に役立つか。

「良い意味の鈍感さ」は言葉に対しても必要です。

2. ただし「聞き手の意識には影響を与える」と知って話し方に気をつける

しかし、かといって、「滑る」「落ちる」といった言葉を気にしている人に、「そんなの気にしすぎ」「気にするほうがマイナスだよ」とばかりに「落ちる、落ちる」と連呼したら、嫌がられます。

良いコミュニケーションにならず、良い関係につながらない、ということです。

こうして発声や話し方のトレーニングをしているあなたなら、「あ、そうか。言葉に対して私が過敏なのかも」と自分の姿勢を見直そうとするかもしれませんが、世の中の人々がみんなそうとは限りません。

「嫌なことをわざと言って嫌がらせをする」としか思わないでしょう。

忌み言葉も、そうですね。

あなたがいくら「結婚披露宴のスピーチで“別れる”“切れる”と言ったからって、それが原因で別れるわけがない」「お葬式で“重ね重ね”と言ったからって、それが原因でまた誰かが亡くなるわけではない」と知っていても、コミュニケーションの姿勢として、相手の感覚や価値観を尊重できるだけの余裕がほしい。

答えは場にあり、答えは相手にあり、ですからね。

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