リアリティーのある文章の書き方

●自分の体験をどう入れる?

人を動かす文章を書くには、リアリティーが必要です。

文章の型を守り、たとえばPREP法などに当てはめて書いたとしても、読み手が「嘘くさい」と感じたら「人を動かす文章」にはなりません。

そもそも読み続けてもらえませんよね。

自分の体験など具体例、実例などを詳細に書くことは、効果的です。

とはいえ、いくらでも詳しく書けばいいかというと、そうではない。

加減が肝心です。

さすがは「文章の書き方講座」で学んでいるみなさんだけに、そういうバランスや手加減について気にしているようで、こんなメールが届きました。

リアリティーを高めるために、「自分の体験」を入れたのですが、
「どの程度詳細に描くか」で悩んでいます。

あまり細かく描くと、読み手が共感できない部分も出て来るかも、
「私は、そう感じないな」と読む気持ちが離れてしまうかも、と感じます。

具体的には、「指名されたとたん、冷や汗が出てきて……」
「笑顔でいようとしているのに、緊張で表情が引きつってしまい、
相手に違和感や緊張感を与えてしまっている様子に、
さらに顔が引きつってしまい……」などここまで書くと、
読み手に「私は、それはない」と感じさせて
「自分のこと」と感じさせない可能性もあるかな、と思いました。

いいですねえ。とっても大事なことです。

何が大事かって、こうして「読み手の意識を推測しながら書く」こと。

なかなかこの意識が持てません。「体験を入れてみよう」と言われたら、とりあえず体験を書いて「ちゃんと書きました」と白か黒かで決めてしまう。

でも、大事なのは「書いたかどうか」より「どう書いたか」です。しかもそれは読み手の意識を推測しないとうまくいかない。

どうしても「自分にとって最もしっくりくる程度」で書いてしまうんですよね。

自分の関心事は、やたらとディテールが細かい。さほど関心がない事柄については、白か黒かでざっくりバッサリ。

正解は読み手や目的によって決まります。

細かすぎても粗すぎても、うまくない。一本の文章の中でも、「書く目的」によってどこを細かく、どこはざっくりするのが適切かが決まってきます。

一律に「このレベルの詳細度が正解」とは決められない、ということですね。

書いている文章を読みながら、「この流れでこの文を読んだ相手は、何を考え、感じるかな」と推測しながら、詳細度を工夫していきましょう。

「ここで読み手は何を知りたがるかな」「ここでどんな相づちを打つかな」と推測しながら、その反応に応えながら書き進める。

すなわち、「質問ライティング」ですね。


●読み手の意識を決めつけない

ただし、「読み手の意識を決めつけない」態度が大切です。

気にはしても、決めつけない。

文章だけでなく、コミュニケーション全般の原則と心得ましょう。

小説で言う「神の視点」が入ると、途端にリアリティーが消え、違和感を与えてしまいます。

「神の視点」とは、特定の登場人物の視点にとどまらない、「神様だからわかるんだよ」と開き直ったような表現のこと。

たとえば、こんな書き方です。

サルオは初ステージの緊張で、今すぐこの場から逃げ出したかった。
「大丈夫よサルオさん。私なんて違う曲を演奏したけど、なんとかなったから」
くま子はサルオを励ますことで、自分も少しは気が紛れるのを感じた。

サルオとくま子、それぞれ本人にしかわからないはずの内面を、断定して書いていますね。

サルオが本当に「逃げ出したかった」かどうかを知っているのは、サルオ本人だけ。だから、サルオの視点で書いている文章であれば、第1文は何も問題ありません。

ところが、サルオの視点で書いている文章なのであれば、最後の「(くま子は)……感じた」はおかしいですね。

こちらは、くま子にしかわからない意識内容なのに、事実のように書いている。つまり、くま子の視点に移ってしまっている。

つまりは、サルオの内面もくま子の内面も同時に知り得る人物が書いていることになる。そんな人物は存在しえないのだから、いるとしたら「神様くらいじゃない?」というのが、「神の視点」です。

神の視点が入った途端、「創作臭くなる」のがわかりますか?

自分の体験を事実として書いていたはずなのに、視点が自分ではないところに置かれたら、フィクションになってしまいます。


●他人の内面をうかつに描写しない

他人の意識内容を推測して表現すると、「神の視点」になってしまうことがあります。

しかも、書き手も自覚しないくらいスルリと忍び込んでくるので、注意が必要です。

たとえば、先ほど引用したメールでいうと、

相手に違和感や緊張感を与えてしまっている様子に、

このあたりは、ちょっとリスキーですね。

相手が違和感を覚えたり緊張したりしているかどうかは、相手にしかわからないはず。「様子」という言葉から「客観的にそのように見えた」という意味合いに多少は救われているものの、「本当に緊張していたの? 違和感はどこからわかった?」とツッコミを入れる余地がある。

「イライラしていた」「話しかけないでオーラを発していた」といった表現も、厳密に考えたら、おかしい。

こういうところにまずは「気づく」ことで、文章の精度が上がります。

「話しかけないでオーラを出している人っているよね」「わかる~、いるいる」と同調しているだけでは、精度の高い文章は書けません。

「真剣に仕事をしているだけであって、話しかけられるのは大歓迎」かもしれないのに、勝手に「他人を拒絶している気難しい人」判定は失礼ですよね。

「貧乏ゆすりをしながら、時おり机を指でトントン叩いた」は客観的な表現ですが、ここから「いや、明らかにイライラしてるでしょ」と決めつけるのは、別の話。

いったん立ち止まって、「この表現で適切かな」と気にする癖をつけましょう。

「客観的な描写」を心がけると、真のリアリティーが出てきます。

文章だけでなく、普段の会話から、気にするといいですよ。

「いきなり怒られた」
「逆ギレされて困惑」
「自分のことしか考えてないよね」

など、ネガティブ表現は特に「他人の内面を勝手に表現」しがちです。

「○○と注意された」
「注意したら、○○と反論された」
「私のことを考えてくれていないのかな、と思っちゃった」

このように、「客観的な描写」「内面を書くとしたら自分のこと」を心がけましょう。

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トレーニングで伸びるコツ(成長の原理原則)

●もう今日からでも「伸びるタイプ」になれる

今日は発声・話し方のトレーニングに励むみなさんに、「トレーニングで伸びるコツ」の話をします。

といっても、「毎日練習しましょう」だとか「水面下では成長しているから大丈夫」といった、すでに一般にも広く知られているような話ではありません。

どちらかというと、「不都合な真実」と呼ばれるタイプの事実について。

「成長」に関する原理原則です。

この話をよく理解して、自分のトレーニングに取り入れれば、今日からでもすぐに「伸びるタイプ」になれます。

あくまでもあなたが「伸びるタイプ」「もっと伸びるタイプ」になるための話として、今日はお伝えします。

声のサロンでもことば学講座でも、「記憶」や「学習」を取り上げていますね。心理学の大事なテーマの一つです。

成長や技術の習得、トレーニング成果などに関わる大事なテーマです。

あなたはレッスンの時間に、記憶もするし学習もしますね。成長もするし、技術の習得もします。

私はそれを促進させる役です。

学び習うあなたは、有益な技能を習得しようとしている。私はその成果を願っている。

役割は違えど、同じ一つの仕事に取り組んでいるといえるでしょう。


●教えるのがうまい指導者、下手な指導者の違い

教師や講師、インストラクター、コーチと呼ばれる人たちは、教えたり育てたりするのが仕事です。

「できない」が「できる」に変わるサポートをするのが、こうした指導者の役割ですね。

昔も今も、「育てるのがうまい指導者」と「下手な指導者」がいます。

指導者自身、わかっているんですよね。自分はわりと育てるのがうまいほうか、下手なほうか。

どうやってわかるのか。

もちろん、結果からです。成果からです。

教えた相手が育てば、うまい。育たなければ、下手。

教授法を学び、指導の経験を積んでも、生徒がちっとも育たなかったら、良い指導者とは評価されないし、自分でも自信が持てない。

逆に、教える技術を学んでいなくても、長年の経験がなくても、受け持った生徒がグングン成長したら、良い指導者として認められる。自分でも自信が持てる。

あくまでも結果が教えてくれます。

だから、教えてきた年月が短く人数が少ないうちは、確率的に見極めが不正確になります。

極端な話、1人しか教えたことがなく、その1人が育てば「100%成功する優秀な指導者」ということになってしまうし、その1人が育たなければダメ指導者ということになる。

あまりに不正確な見極めですね。

しかし、教えた相手が数百人、数千人と増え、教えた年月も何十年と伸びるにつれて、だんだんと正確な見極めができてくる。

そんなレベルのベテラン指導者たちが語った「育てるコツ」があります。

育てるコツというより、「育てることに成功したとされる成果の真実」です。

優秀とされる指導者は、教え方の技術が優れていたのではなく、「育った相手が優れていた」というのです。

シンプルな言い方をするなら、「育つ人だけを育てた」。

育たない人を、努力して、工夫して、がんばって育てたのではない。

育つタイプが勝手に育っただけ。

もちろん、指導者が「この人は育つから教える」「この人は育たないタイプだから教えない」と選り好みしたり贔屓したりするわけではありません。本気でみんなを指導している。

スポーツの世界では素質ある選手だけ選抜して育てるという場面はありますが、多くの場では「相手が希望すれば教える」ものです。

音楽教室の先生が生徒に「あなたは才能があるから教える」「あなたには才能がないから教えない」と選びませんね。

塾の先生が「キミは伸びそうだから入塾を認める」「キミは伸びそうにないからお断り」なんて選り好みしない。

そりゃそうです。「絵が苦手だから習いたい」と教えを乞うたのに、「どうもセンスがなさそうだから教えない」と断られたら困りますよね。

「センスがあれば、とっくに得意になってる。センスがないから習いたいんだ」とツッコミますよね。

職場でも部下から相談された上司が「キミは才能がないから教えない。私は才能がある部下にしか教えない」と答えたら、問題ですよね。

だから、「育つ人だけを育てた」といっても、みんなを本気で教えてはいるわけです。でも、その中で「実際に育ったのは、もともと育つ性質を持っていた人だけ」ということ。

これが育成の、指導の真実だというのです。

よろしいですか? ここはかなり大事なところです。

「育ったのは、もともと育つ性質を持っていた人だけ」

この一文、ぜひ覚えておいてください。

といっても、教える仕事をしている方は、私も含めて、この事実を「責任転嫁の口実」にしてはいけませんね。それではプロ意識に欠けます。

指導者は、困っている相手に手を差し伸べ、サポートをするのが役目です。

「困っている相手」とはすなわち「不足している相手」なのだから、センスや才能を求めて選別するのは違いますよね。

必要とする人に適切に「give」することだけに集中するのがいい。

「部下を親身に指導して、成長を見守るのは嬉しいけれど、何年かすると異動で担当が変わってしまうから虚しい」という話を聞いたことがあります。

「教室に通ってくる生徒も、いつかは卒業していくから、なんか本気になりきれなくて」とこぼしていた人も。「できるようになると、いなくなる」という。

でも、そこは考え方が大事。相手本位のはずの指導も、入れ込み過ぎるとどこかで自分本位が忍び込んできます。

サポート役が変わり、御役御免になったなら、それはそれで嬉しいこと。

子が自立して自分のもとから離れることを心から喜ぶ親のような意識が、指導者には必要ですね。


●なぜ彼らは伸びたのか

「育ったのは、もともと育つ性質を持っていた人だけ」

私の経験からも、確かにその通りと納得できます。

今までいくつかの分野で数千人を指導してきました。直接会わずに指導した通信教育などを入れれば延べ数十万人になります。

自慢のようですが、「教えるのが異常にうまい」と評されたことがあります。

事実はどうか。

「教えるのが異常にうまい」のではありません。「異常に伸びた生徒がいる」だけのこと。

100人のクラスを担当して、100人全員が例外なく伸びるなら、「教えるのが異常にうまい」と自慢していいでしょう。

でも、そうではない。その中で10人か20人か、限られた一部の生徒に「異常に伸びた生徒」がいる。

英語の授業だとしたら、英語が嫌いでたまらなかった生徒が、テストで80点や90点を楽々取るようになり、やがて英語の仕事をするプロになる──そんな極端な変化をする生徒が一部にいる。

全員ではありません。大勢ではありません。ごく限られた一部です。

それでも劇的な変化だから、目立つわけです。それで「教えるのが異常にうまい」と評される。

指導者自身はよくわかっているものです。「優秀な人気講師」「あの先生に教われば必ず合格する」なんて高く評価してもらえるのは嬉しいけれど、それは「優秀な生徒のおかげ」であることを。

オリンピック選手が金メダルを獲ると、その指導者や指導法が脚光を浴びることがありますが、もちろん指導者の力もすばらしいにせよ、選手が活躍したおかげで評価されるんですよね。

あるプロゴルファーがこんな話をしていました。「スイングに唯一の正解があるわけではない。その時期に活躍している選手のスイングが正解とされるだけだ」。

正しいスイングと誤ったスイングがあると信じている人が多いが、そうではなく、その年に優勝したゴルファーのスイングが正解だとしてみんなが真似するだけのこと。

つまり、そのスイングが「正解」の栄冠を勝ち得たのは、そのスイングを採用して活躍してくれたゴルファーのおかげである、ということですね。

スイングの種類など、細かに分類すれば何種類にも分けられるのだそうです。今年のなんとかオープンで優勝したゴルファーが、スイングAではなくスイングBを採用していたら、優勝できなかったか。

メーカーAのゴルフクラブではなくメーカーBの製品を使っていたら、優勝できなかったか。

まあ優勝はごくわずかな差であっちへ転んだりこっちへ転んだりするので断言はできないまでも、優勝争いをするグループにはおそらく残るだろう、ということでした。

なぜなら、「伸びる性質」を持っている選手だから。


●育つ性質を強めるには

思い出しましょう。

「育ったのは、もともと育つ性質を持っていた人だけ」

トレーニングする側から考えてみましょう。

育ちたい、成長したい、何かを身につけたいなら、「育つ性質」を持つ必要がある、と解釈できます。

どんなタイプが「育つ」のでしょうか。逆にどんなタイプは育たないのでしょうか。

数千件ないし数十万件というケースから、ある程度は統計的に「こんなタイプは伸びる」と導き出すことができます。

私が見てきたのは、文章や発声や潜在意識や動作など、人間の深いところに関わる事柄が多いので、たとえばワープロソフトの使い方だとか機械の操作法などの習得とはちょっと違った部分があるかもしれませんが、共通部分も多いはずです。

トップ3といえる要素を挙げますから、今後のトレーニングに取り組む上での参考にしてみてください。

  1. いつもそのことばかり考えている
  2. 「自分」が強すぎない(長続きする秘訣)
  3. アイデンティティが変わる

それぞれ説明を補足します。

1. いつもそのことばかり考えている

習ったことをいつも意識のどこかに置いていて、何かにつけて思い出す状態は、たいへん望ましい。

「意識」や「言葉」なんて、起きている間ずっと付き合っているものですから、気にしていれば24時間絶えず意識の中に置いておけます。

肩甲骨や股関節の使い方を指導したところ、「仕事中にしょっちゅう肩甲骨を動かしている」と話してくれた方もいます。

「起きてから寝るまで、ずっとトレーニング。たぶん寝ている間も」と表現した方もいます。

むしろ、自分が取り組んでいることを考えていない時間のほうが少なくなっていく。それが伸びるタイプです。

2. 「自分」が強すぎない(長続きする秘訣)

「自分が○○」「自分は××」が強すぎると、習ったことを素直に吸収できないばかりか、取り組みが長続きしません。

「継続」は伸びるタイプの必須条件ですからね。

続けるには、教わる内容と自分自身がぶつからないほうがいい。

たまに年配の方から「もう今から始めても遅いでしょうか」と質問をいただくことがあります。

いつ始めても、伸びる人はぐんぐん伸びます。それに、これからの人生の中で今日が一番若いんです。

とはいえ、年配の方の弱点として「今までの自分とぶつかって素直に受け取れない」ところは確かにあります。

発声を習っても、「若い頃にこう習ったんですけど」と自分の中にあるものとぶつかって、素直に入ってこない。

これに関しては、「素直が一番」と表現したことがあります。

大人なんですから、スパッと覚悟を決めたら、あとは素直に受け取っていくのがいい。それができる人は、必ず伸びます。

そういえば、最近は「ネットでこういうのを見たんですけど」と言われて困惑している講師が少なくないそうです。音楽教室の先生も、生徒さんから「YouTubeでこういう弾き方を見たんですけど」と言われて、「だったらここに習いに来ないで、YouTubeで勉強したらどうですか」とお引き取り願ったそうです。

確かにそういうタイプの生徒は、伸びませんね。ネットでいろいろ探して、参考になりそうな答えがないかと気軽に行動しているのかもしれませんが、この行動パターンの持ち主は、今後も何かあるとネット検索に戻りますからね。

ネットでふらふらと答えを探している点で「自分が強い」とは逆のようにも思えそうですが、「何かあればネット」という行動パターンに執着するところから、「自分が強い」と言えます。

自分を中心に据えて固定し、「自分に合うものを探す」人はなかなか伸びない。

「合う自分に育てていく」という、自分側を動かしていく意識があると、伸びていきます。

3. アイデンティティが変わる

アイデンティティとは、「自分は何者か」の認識のこと。

発声のトレーニングを始めて数年経って、自分を「発声に取り組む者」「声を大切にしている人間」と認識するようになる人は、伸びますね。

つまり、伸びるタイプは「そういう人間」「そういう存在」という自己認識が変化してくる。

逆に、伸びないタイプは「ちょっと声に興味があって習っている」という感覚でずっとやっている。

たとえば、声のサロンやことば学講座を受講している方であれば、「自分は声を大切にしている者」「身体や意識の大切さを知っている者」「だから丁寧にトレーニングを積み重ねている存在」といった自己認識になっていますか?

こうしたアイデンティティは大事です。

そういう存在になっている、という「なりきり」をまずは本気でやってみるといいですよ。

今日は、せっかくトレーニングや修業に取り組むなら成果を上げてほしい、取り組んだなりの素敵なものを手に入れてほしいとの思いから、「伸びるタイプ、伸びないタイプの違い」についてお話ししました。

これを機に、「グングン伸びるタイプ」「ガラリと進化するタイプ」になりきってしまいましょう。

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