症状別ボイスカウンセリング……弱々しい声

【弱々しい声】

朗読トレーニング、していますか?

話し声を良くするには、「歌→朗読」というトレーニングプロセスが欠かせません。

今は課題の『走れメロス』(太宰治)で朗読トレーニングを十分おこないましょう。

たまに「音痴なので歌はやらずに話し声を良くしたい」というご相談がありますが、「音痴を直すために歌う」のではないので、心配は要りませんよ。

歌トレーニングの目的は、「発声時の身体の使い方を覚え、発声能力を拡張する」こと。

歌わずに話し声のみでトレーニングした場合、一時的に声が変わりますが、根本的な発声能力が高まらないので、すぐに限界がきます。

もしかしたらあなたにも、以前に話し声の改善にトライして、一瞬変わったけれどすぐに戻り、結局何も変わらなかった経験があるかもしれません。

話術で聴かせる落語家だって、昔は「唄い」の修業もやらされました。

最近はしゃべりしかやらない落語家も増えているそうですが、唄いを修業した落語家は「声の力」が圧倒的です。

アナウンサーや講師など、話し声を仕事道具とする方は、ぜひとも古典歌曲による「発声能力の拡張」を基礎トレーニングとしてしっかりおこなってください。

「あめんぼ赤いな あいうえお」や「外郎売」はその後でも構いません。

 

●弱い声を改善するには

発声能力がぐっと高まったら、「話し声」への適用に入ります。

それが「朗読トレーニング」です。

歌で拡張した部分を話し声に使えるようにトレーニングし、また歌で発声能力を伸ばし、話し声に適用し──この繰り返しで「声の力」を高めていくのです。

適用がスムーズにいかないと、良い話し声になりません。

流暢にしゃべってはいても、弱い声、固い声、きつい声、暗い声など、声の質が良くないのは、「話し声への適用」がうまくいっていないか、そもそも歌トレーニングをサボっているか、です。

これから時々この場で、「症状別ボイスカウンセリング」をしようかと思います。

読むだけで声を変えるのは難しいでしょうが、方法を理解した上でレッスンに臨めば、レッスン効果が高まるでしょう。

今日は「弱い声」を取り上げます。

・か細くて聞こえない
・「えっ?」と聞き返される
・店員さんを呼んでも気づいてもらえない

こういった声の症状に悩んでいるなら、まずは「支え」をチェックしましょう。

つまりは横隔膜の使い方です。

 

●壁押しトレーニングからスタート

声があまりに弱く、ふわふわして芯がないなら、「壁押しトレーニング」をします。

トレーニングといっても、壁を押し続ける筋トレではありません。

「横隔膜を効果的に使ったときの感覚」を覚えるのが目的です。

「あ~~~」と声を伸ばしながら、両手で壁をぐっと押すと、押したときだけ声に芯が入るでしょう。

断続的にぐっ、ぐっ、ぐっと繰り返すと、分かりやすいかもしれません。

押したときだけアクセントを付けたように「あ~~あ~~あ~~」と強まるでしょう。

でも、押していないときはまた声が弱まってしまう。

今度は壁を押さずに、「押したときのお腹の感覚」だけ再現しながら、声を出してみてください。

ただし、息が勢いよく出て一瞬で終わってしまわないように、10秒ぐらいは「あ~~~~」と伸ばせるように出します。

壁押しでアクセントが付いたときの声のまま10秒伸ばせたら、あなたの声には芯が入っているはず。

そのときの体の使い方をキープしながら、「メロスは激怒した」を練習してください。

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会話はもう少しデリケート(人間関係を築く会話の方法)

●「気持ちよく話してもらえてよかった」は聞き上手か

 

季節の講座の受講者から、こんなメールが届きました。

自分の会話を振り返ってみて、大事なことに気づいたそうです。

> 会話について勘違いしていたなあ、と気づいたことがあるので
> 報告します。
>
> 「自分の話より相手の話を聞くのが相手本位」という原則を
> おおざっぱに捉えて過ぎていました。
>
> 自分のことはほとんど話さず、
> 相手の話を関心を持って聞いて、質問をしてもっと話してもらうと、
> 「相手に気持ちよく話してもらえてよかったなあ」と
> 勝手に満足していました。
>
> でも、単純に「相手が話す量が多ければいい」というわけでは
> なかったのだなあ、と反省しました。

良いところに気づきましたね。そのとおりです。

何事も極端はいけないのであって、単純化しすぎると本質を見誤ります。

会話や言葉の取り組みは「大人のレッスン」ですから、そんな単純なわけがありません。

「相手の話を聞くのが大事」だからといって、「だったら自分はいっさいしゃべらず、相手にだけしゃべってもらう努力をしよう」と考えたら極端すぎます。

分かりやすい例を挙げるなら、上司から質問されたとき、必要なのは「答え」です。

「よし、上司にもっとしゃべってもらうチャンスだ」とばかりに、「なぜそのような質問をしようとお考えになりましたか」と質問返しなどするのは、見当違いですよね。

あらためて考えてみると気づくように、さらに質問をして答えてもらっておきながら、

> 「相手に気持ちよく話してもらえてよかったなあ」と
> 勝手に満足していました。

これは非常にマズイわけです。

時間とエネルギーを使って答えてもらいながら、「長々としゃべれて、気持ちよかったでしょ」と解釈しているのですから。

「たくさん答えていただけて、ありがたかったなあ」と思うなら、良いコミュニケーションになるでしょう。

> 「質問をうまくかわせなくて、話したくないことまで話してしまった」
> 「会話よりも他にしたいことがあったけれど、熱心に聞いてくれるから
> 長話をしてしまった」など、
> 相手に負担をかけることもあったと思います。
>
> はっきりと質問の形を取ると、相手に逃げ場を与えにくくなるので、
> そういう点でも「オウム返し」は効果的なのかも、と気づきました。

オウム返しの効果も併せて実感できたようですね。

会話はコミュニケーション、人間関係なので、意識しなければならない要素がたくさんあります。

ふだんの会話で気づいたこと、気になったことがあったら、季節の講座前の質問フォームからぜひ書き送ってくださいね。

毎回の講座が、あなたのための講座になりますよ。

> 相手がその話題で話をしたがっているか、
> 今の相手は「もっと話したい」と思っているか、
> その場のメンバーや状況を考慮する、
>
> など、いろいろと意識することがあるのに、
> 雑なコミュニケーションをしていました。
>
> 季節の講座の復習をして、意識を改めます。

まさにそういうことです。

会話は相手があってのことですから、唯一の正解があるわけではありません。

「最強の切り札」「誰にでも使える会話の必殺技」みたいなものがあれば便利ですが、そんなものはありません。

猫にはマタタビが劇的に効いても、犬にはまるで効かないように、相手によっても正解が違うし、タイミングによっても正解が違います。

もしかしたら、犬だってたまにはマタタビがほしくなるかもしれない。

「前回ダメだったから、今回だってダメに決まっている」わけでもない、ということです。

最善策だけでなく、次善策もあり、そのくらいのゆるい雰囲気が喜ばれる場合もある。

だから会話は奥が深いんですね。

日々切磋琢磨して、会話上手になりましょう。

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『人は見た目が9割』とは……見た目に「声」が含まれる

●人は声が4割

『人は見た目が9割』という本がベストセラーになったことがありました。

タイトルだけ見てショックを受けたり、「やっぱりそうなの?」とガッカリしたりした人も多いと聞きます。

それどころか、タイトルに反発してか、話題にはしても読みはしなかった、という人がまわりに何人もいた、とも聞きました。

このタイトルの根拠を知れば、「見た目が9割」とだけ言われるより納得しやすいのではないでしょうか。

このタイトルは、米国の心理学者アルバート・メラビアン博士による、「人の第一印象の55%が外見、38%が声、7%が話の内容で決まる」という説、「メラビアンの法則」を根拠にしています。

「えっ、だったら見た目は55%なのでは?」と思ったでしょう。

そうなんです。つまり、タイトルの主旨は、「どんなにイイ話をしたとしても、内容が与える印象はわずか7%、つまり1割にも満たない。残りの9割は外見や話し方(声を含む)で決まる」ということなのです。

そう説明されたら、「見た目がすべてなの!?」なんてショックを受けることもなく、「まあそんなものかもしれない」と思えるのではありませんか?

それにしても、「見た目が9割」の中に「声」まで含まれていたとは、「そんなタイトルの付け方、ずる~い」と言いたくなりますが、出版社の勝利でしょうね。

 

●大事な商談があるなら声をチェック

ここで注目したいのは、「声」の影響の大きさです。

これから大事な商談、失敗できないデートがあるなら、声をチェックしてから出かけましょう。

プレゼン資料やセールストーク(内容なので7%)より、あなたの第一印象を左右するのですから。

見た目は誰でも気にします。大事な商談にジーパンTシャツで顔を出す人はいない。ビーチサンダルで行く人もいない。

仏頂面より笑顔のほうが感じがいいと知っているから、「真剣な顔か、笑顔のどちらか」で話すはずです。

しかし、「声」そのものに気を配っていますか?

いま出した自分の声が、どんなふうに相手に聞こえたか、気にしていますか?

・声が高すぎたり低すぎたりしなかったか
・声量は適切か。相手の聴覚に負担を強いていないか
・そんなつもりはないのに、不満を含んだ声になっていなかったか
・もっと柔らかく、温かみのある声にならないか

といったことを、ジーパンTシャツやビーチサンダルと同様に気にする価値があります。

なにしろ、印象の約4割は声で決まるのですから。

「見た目は55%だから、もっと大事では?」と思いますか?

確かに、第一印象に関しては見た目の割合が最も大きい。

しかし、2回目以降は急速に影響力が低下していきます。

「見た目は慣れる」からです。

「美人は三日で飽きる。不美人は三日で慣れる」などという言葉もありますが、視覚刺激に順応しやすいのは確かです。

「美人だからという理由で結婚した」ケースはたまにあっても、「不美人だからという理由で離婚した」ケースはないのだそうです。

確かに、初回にビーチサンダルで現れた相手に衝撃を受けたとして、2回目以降は「そういう人なんだ」とあきらめがつきますね。会うたびに見た目で評価が下がり続けることはない。

ところが、声(聴覚刺激)は、飽きないし、慣れない。

好きな音楽を何百回でも飽きずに聴くのは、聴覚刺激だからです。数百年にわたって聴き継がれている古典歌曲などは、まさに「声は飽きない」証拠ですね。

「声は慣れない」ほうも重要です。

ヘンな声を出していたら、「2回目からは慣れた」とはなかなか感じてくれない。ヘンな癖はずっと気に障るし、ヘンな発声にはずっと違和感を覚える。

だから、長期的に良い関係を築きたいのであれば、声と話し方を気にするのが効果的なのです。

中でも、「通る声」は重要です。

まったく同じことを話していても、しっかり通る(届く)声で話すのと、通りのよくない声で話すのとでは、印象も信頼度も違います。

あなたがこの文章を読んでいるということは、声の影響力や重要性に気づいているか、声に関心を持ち始めている、ということですね。

その姿勢は実に正しい……と発声指導者として声を大にして言いたい。

約4割ですよ。声のトレーニングをしないのは、4割をあきらめる、ということです。

4割ぐらい構わない、と思いますか?

想像してみてください。髪をちゃんとセットしてから、4割をぐちゃぐちゃに崩したら、「どうしたんですか、その髪」と心配されるでしょう。

4割のぐちゃぐちゃで、全体が台無しですよね。

皮膚の2割を火傷したら、命にかかわるそうです。4割だったら……想像するだけでも恐ろしい。

ビジネスでも恋愛でも、印象の4割を決める部分は「全体を決める」といえるでしょう。

身だしなみを整え、魅力的な提案も完璧に用意したのに、声のせいで破談になるのは本当にもったいない。

声が占める4割は、共鳴発声法で整えましょう。

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