朗読トレーニングで脳を鍛えよう

5~7mくらい離れた場所にターゲットを設定して、「メロスは激怒した。必ず──」と読み続けられますか?

あるいは、「一文一息」(息継ぎなし)で読めますか?

といったことを意識し始めると、完璧に覚えられたつもりだった一節が、急に怪しくなるかもしれません。

「車の運転をしながら朗読の練習をしていると、道を間違える」と話していた方もいます。

私たちの脳は、ここまでマルチタスク(並行処理)が苦手なんですね。

これはもう、脳の仕組みがシングルタスク用にできているので、しょうがない。

向き不向き、適材適所、得手不得手といったところで、脳にマルチタスクをさせようとするのは、飛行機に乗らずに電車に乗って「なぜ飛べない?」「がんばれば飛べる」と言っているようなもの。

ただ、脳の仕組みをさらに詳しく知って活用すると、トレーニングによって「一見マルチタスク的な処理」ができるようになる。

喩えるなら、ローカル線の各駅停車が、新幹線になるようなものでしょうか。

言葉で説明するなら、「自動化できるほど熟練したタスクは潜在意識に渡してしまう」ことによって、複雑なタスクが処理できるようになります。

朗読でいえば、「喉あけ」をしようとした途端に「呼吸」が浅くなったり、「間違えないように読む」ことを意識した途端に「ターゲットまでの距離感」がなくなったりするのはむしろ当たり前。

複数のことを同時に意識し続けるのは、脳は苦手というより無理だからです。

しかし、「意識しなくても喉があいている状態」までトレーニングすれば、呼吸を意識するだけで「喉あけと呼吸が両立した状態」になる。

さらにトレーニングを重ねて、「意識しなくても深い呼吸ができる」段階まで進めば、声のターゲットを意識するだけで、「喉あけと呼吸とターゲットがうまくいっている状態」になる。

これが「トレーニングによる熟練」です。

こうして熟練していくトレーニングを重ねていくと、脳の質が変化して、脳の機能が高まると言われています。

実は朗読は、脳の機能を高めるトレーニングに最適なんです。

運動や言語や視覚や聴覚や感情などさまざまな脳の部位をフル活用しつつ、それぞれの要素をトレーニングによって自動化できる、つまり潜在意識に渡してしまえるのが、「ちょうどいい」加減なんですね。

車の運転のように、刻一刻と変化する外界の状況に対応するなど自動化できないタスクが含まれると、潜在意識に渡せずに常にモニターし続けなければならないので、脳に負担がかかって疲弊しやすい。

だから車の運転は時々休憩を入れたほうがいい。飛行機や電車の運転でも連続何時間以上の操縦は禁止と規則に定めているのは、それだけ脳を疲れさせる作業だからです。

脳も体も、良い鍛え方ならいくらでも強くなりますが、よくない鍛え方をしてしまうと、疲弊しきって伸びなくなってしまう。

筋トレも、やり方を間違えるとかえって筋肉がやせ細っていくそうですね。

その点、朗読はありがたい。

朗読トレーニングに没頭すると、発声と話し方のトレーニングとして効果的であるだけでなく、脳そのものを鍛える効果が高いからです。

朗読トレーニングで脳を鍛えましょう。

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新潟市で共鳴発声法の話し方レッスン
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通る声、届く声の出し方の本