●一緒に声の魅力を味わいましょう
声の振動が気持ちよくてずっと出していたい
「声のサロン」講師の齋藤匡章(さいとうまさあき)です。
「声」について、じっくり考えたことはありますか?
このサイトにたどり着いたくらいだから、声に関心はあったでしょう。
でも、おそらくあなたが今までに思っていた、予想していたより、ずっと大きな桁違いの影響力や魅力が声にはあるのだと、きっとこれから知ることになります。
声というと、多くの人は「通る声、ちゃんと届く声、大きな声の出し方」「喉が痛くならない発声」「素敵に聞こえる声の出し方」などは気にするようです。
会話やスピーチなどのコミュニケーションで相手に及ぼす作用を思い浮かべます。信頼できる声、聞き手を引きつけ魅了する声など、「聞こえるかどうか」以上の心理的な作用です。
しかし声には、それ以前にもっと大事な、もっと深い作用があります。
それは、あなた自身への作用です。
発声が本人に与える作用とは、響きや振動が耳に聞こえるだけでなく身体にも伝わり、生体としてのあなたの存在に及ぼす影響のこと。
たとえば、胸骨のあたりに手を当てて、声を出してみてください。なんでもいいので、好きな歌のワンフレーズを歌ってみる。
出している声はもちろん聞こえます。でも、それだけでなく、身体に振動が感じられる。
この振動は、発する声の高さで変わります。発声器官の使い方で、さらに変わります。共鳴の捉え方で、もっと変わります。
つまり、「声の出し方」によって、あなたの身体はこれだけ明白に強烈な振動にさらされるのです。
声は振動です。周波数を持つ音の波です。
この振動が、心地よいものであれば、発声そのものが気持ちいい。
逆もあります。心地よくない振動を生み出してしまえば、ガラスを引っかく音や悲鳴に不快や恐怖を感じたりするように、身体はハッキリとイヤな感じを受けます。
気のせいではなく、明確な物理現象として、あなたの身体が震えるからです。
写真は私、テノール齋藤が浜離宮朝日ホールでナポリターナを歌っているところです(ピアニストはフェルモンド氏)。
共鳴発声法で声を出しています。だから、強烈に気持ちいい。特に共鳴を集めた高音をピーンと出しているときなど、振動の気持ちよさに溺れるように味わっています。
もう、ず~っと声を出していたいくらい。
この快感は、ぜひあなたにも味わってほしい。共鳴発声法で歌ったり話したりしながら、共鳴が身体の内部に伝わる感覚をいつか味わってほしい。
そう願っています。
齋藤匡章(さいとうまさあき)
群馬生まれの新潟育ち。
言語戦略研究所所長、発声指導者養成機関「音色塾」講師を兼任。
新潟大学人文学部を卒業後、同大学院で心理言語学を研究、言葉と声の関係が専門。
新潟市で「英国紅茶サロン メイフェア」「フェルマータカフェ」を経営。発声、話し方、プレゼンテーションなどの研修会場としても利用している。
定期的にクラシック音楽会を開催しているほか、新潟ガラコンサート、新潟クラシックストリートに出演。
第29回(2021年)太陽カンツォーネコンコルソ・クラシック部門1位。
著書に『内向型人間が声と話し方でソンしない本』(青春出版社)ほか、心理学、言語学、発声、話し方、コミュニケーションに関する著作あり。
声の振動とリズムが生命力を呼び覚ます
声の共鳴を捉えた振動が身体に伝わると、気持ちいいのはわかる。想像もできる。
でも、ただ気持ちいいだけなのでしょうか。
猫がゴロゴロと喉を鳴らす音には、癒す力があるとされています。
なんか胡散臭い話だなと、最初聞いたときは思いましたが、25Hz前後の低周波音は骨芽細胞を活性化し、骨密度をたかめる周波数で、実際にこのゴロゴロ音にヒントを得て開発された骨折治療器もあるのだという。
なんと、ネコ科の動物は他の動物に比べて骨折などの回復がすごく(3倍くらい)早いのだそうです。
確かに肉食で瞬発力で獲物を捕らえるネコ科の動物は、ケガが治らなかったら飢え死にしてしまいますね。だから自らゴロゴロ音を発して治癒力を高めているというのも、不思議な話ではありますが、納得できます。
しかも、この25Hzあたりの低周波には、身体の緊張をほぐして副交感神経を優位にする(つまり回復力が高まる)効果や、多幸感を与えてくれるセロトニンの分泌を促す効果などがあって、私たち人間にも好影響があることがわかってきています。
猫のゴロゴロを聞きながら寝ていれば、自律神経が調ってリラックスでき、疲労やケガの回復が早く、骨密度も高まるなんて、最高ですね。
これは「猫を飼おう」という提案ではなく、発する声に含まれる周波数成分が、これほどまでに私たちの健康や生命に影響している、という証拠として取り上げました。
共鳴による周波数だけではありません。
歌には、リズムがあります。声が生み出すリズムそのものが、私たちの身体と意識に強く作用することもわかってきています。
生きている証ともいえる心臓の拍動はまさに3拍子のリズムだし、歩けば両足が2拍子を刻むのだし、聴いている音楽には自然に気分が合ってくるし、私たちは振動とリズムの中で生きていると言えるのかもしれません。
共鳴を捉えたことはありますか?
話したり歌ったりして声を出しているとき、「共鳴を捉えた」と感じたことはありますか?
ないですよね。ふつうはそんなこと気にせずしゃべったり歌ったりするだけなので、気づかない。
共鳴発声法、ベルカントといった発声法を使うと、「共鳴を捉える」ことができます。ちなみにベルカントとは、イタリアで発明され、昔のオペラ歌手が美しい歌を聴かせていた発声法、歌唱法です。共鳴発声法は日本発声協会が正式に認定している「発声器官をうまく使って共鳴をコントロールする発声法」です。
私はこうした発声技術を紹介して、共鳴を使いこなす技を指導する活動をしています。
共鳴を捉えるのは発声器官を駆使した技術であって特殊な才能というわけではないので、誰でも練習すれば身につけることができます。
共鳴がコントロールできるようになると、どんな良いことがあるのか。
発声が楽になるので、喉を酷使することなく確実に届く声、通る声を出すことができます。
声に力が乗り、説得力・表現力が高まり、コミュニケーションが快適になる。
しかも、声を出していて、とにかく気持ちいい。話していても、歌っても。
左の写真は、太陽カンツォーネコンコルソ(イタリアのナポリターナを歌う全国コンクール)で優勝したときの歌唱シーンです。ちっとも力んでいない、がんばっていない様子が写真からわかるでしょうか。
この発声でまったく無理なくホール全体に響きます。力みがないから、声量も響かせ方も好きなようにコントロールできます。
この「声をコントロール下に置いている」感覚を、ぜひあなたにも身につけ、味わっていただきたい。
話す仕事をしている方、人前で話す機会が多い方、そして歌う方には、喜んで共鳴コントロール法をお伝えします。
声の共鳴を捉えると、目に見えない声を、物質感を伴って扱えるようになります。声がどうなっているか、どう届いているかが、手に取るようにわかるようになる。だから、ぴたりとハマる。
指圧に喩えると、共鳴を捉えた声は「ココ!」というツボにしっかり入り、ほぐしてくれる。
共鳴を捉えていない声は、適当にあちこち押している感じ。
そりゃ効き目も気持ちよさも、ぜんぜん違いますね。