良い声で話す方法に才能や向き不向きはあるか

●発声器官はみんな同じ

「私でも良い声になれるでしょうか」と心配する方がいます。

大丈夫。良い声で話すのに、才能も向き不向きもありません。

あなたの発声器官と世界的歌手の発声器官を比べても、なんら違いはないのです。

だから、「生まれつき声が良い」「良い声で話すのに向いていない」などあり得ません。

そもそも私たちの体には、「もともと発声のための器官」は備わっていません。

呼吸のための器官、味覚のための器官、誤嚥を防ぐための器官などを発声のために借用して、いわば本来とは異なる使い方をして、声を出しているのです。

バケツをドラム代わりに使っているようなものでしょうか。

バイオリンの弓を使って指揮をするようなものか。

だとしたら、「このバケツはドラムに向かない」「彼の弓はもともと指揮に適している」などと考えるのは滑稽ですよね。

あなたの発声器官が、ほかの誰かより劣っていると考える理由はひとつもないのです。

 

●違いは発声の技術だけ

違いがあるとしたら、発声技術の違いだけです。

声帯を正しく閉じる技術だったり、咽頭腔を適度に広げる技術だったり、横隔膜を適切に押さえる技術だったりと、技術的な差はかなり大きい。

声帯を正しく閉じる技術がないと、空気漏れの多い嗄声(かすれ声)になって、息も続かないだけでなく、声帯にダメージを受けやすい。

咽頭腔を適度に広げる技術がないと、つぶれて硬い、深みのない声になる。

横隔膜を適切に押さえる技術や共鳴の技術がないと、通る声を安定して発することができない。

このように、発声技術には相当大きな個人差があります。

違いのありかは、体の構造ではなく、技術。

ということは、「トレーニングで伸びていく」ということです。

 

●だから練習あるのみ

発声練習によって、技術は向上していきます。

それも、時間をかけて少しずつ、着実に。

一日で急激に変わることはありません。

スポーツや楽器も、同じですよね。

自転車に乗れるようになったり、鉄棒で逆上がりを覚えたりしたときのことを思い出すと、ある日突然「あ、できた!」と変化した気がするかもしれません。

しかし、実際には水面下でじわじわと上達の積み重ねが進んでいて、ある時点でついに水面から上に出て、「あ、できた」と実感できただけのこと。

0から急に10にジャンプしたのではなく、0から1へ、1から2へと水面下で積み重ねて、ついに10に至ったときに顕在化して「できた」と自覚できたわけです。

声のトレーニングを続けていると、「声がずいぶん変わった」という自覚が定期的に得られます。

しかも、「あの時は変わったと感じたけれど、あんなのはまだまだだった」「あれはまだ、できたうちに入らなかった」とかつての自覚を否定しながら、成長を繰り返していく。

トレーニングを続けている人だけがご褒美として手に入れる悦びですね。

そのたびに、「ああ、あの時にできたと思って油断しなくてよかった」とホッとする安堵感も、続けてきた人だけのご褒美です。

さあ、練習あるのみですよ。練習は裏切りませんからね。

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