●ポイントは「喉で音程を取らない」
日本語は高低アクセントの言語です。
だから私たちが話すときは、声の高低(ピッチ)をコントロールする必要があります。
英語のような強弱アクセントの言語とは、かなり事情が異なります。
英語の「desk」と日本語の「デスク」を比較してみましょう。
英語のほうは母音が「e」しかないので、ここが強く発せられます。日本語と比べて、自然に「気持ち長め」になりますが、長さは必須の条件ではありません。
短めに発しても、長~く「デェスク」のように発しても、意味の区別はない、ということです。
日本語の「デスク」は、「デ」が高く、「スク」が低くなります。ただし、「ス」が無声化するケースが多いので、感覚的には「デス」がかたまりで高く、「ク」で下がるように感じられるかもしれません。
英語の「desk」と日本語の「デスク」の顕著な違いは、前者が「強い母音」としてしっかり発せられるのに対し、後者の「デ」は強弱に関して無造作に発せられるところ。
「しっかり発する」と「無造作に発する」の違いは、どこに現れるか。
「音程の取り方」です。
しっかり発しようとすればお腹(横隔膜や腹部周辺の筋肉)を使い、無造作に発しようとすれば喉で音程をコントロールするようになります。
だから日本人は、喉で音程を取って話す「喉声タイプ」が多いのです。
●喉で音程を取らない、お腹で音程を取る
共鳴発声法で「喉で音程を取らない」感覚を身につけましょう。
声楽家や歌を習ったことのある方なら、指導者から「喉で音程を取らない!」「お腹で音程を取る!」と言われた経験があるでしょう。
世界中の声楽家たちが、修業時代にたいてい指摘を受けるこのポイントですが、私たち日本人は特に下手なのだそうです。
音高(ピッチ)の変化は、声帯の形状(長さ)を変化させることによって生じるので、この点を捉えて「喉で音程を取っている」と表現しても解剖学的には間違いではないかもしれません。
しかし発声的には、つまり「良い声で話す」という目的にとっては、間違いです。
声帯をコントロールするために、声帯をダイレクトに操作しようとすると、不適切な力みが生じたり、喉頭が上がったり咽頭腔がつぶれたりして、「声の質」が低下します。
意識するのは喉ではなく、喉を抜いた「上と下」。
この「下」がお腹であるわけですね。
●声の質がどう低下するか
今、「喉で音程を取ると、声の質が低下する」と言いました。
具体的には、どうなるのか。
二例挙げます。
まず、「生っぽい喉声になる」。
歌で高音が出てきたとき、「裏声に逃がさないで」と言われて喉で持っていこうとすると、苦しいような、平べったいような、幼いような、剥き出しのような、声になりますね。
それです。
もう一例は、「気の強さを思わせる鋭さを帯びる」。
早口のマシンガントークで、高アクセントがキュッと裏声ぎみになる話し方、分かりますか?
「だから、そう言ってるでしょ!?」
文頭の「だ」、「言ってる」の「て」、最後の「しょ」を思いきり高く、裏声ぎみに読んでみてください。
そう、この感じです。
お腹で音程を取るようになると、このような発声を卒業して、艶のある澄んだ大人の声を身につけることができます。
というより、お腹で音程が取れるようになってから、声を磨いていくんですけれどね。
●「イイ腹してる」が褒め言葉
ある声楽家がこんな話をしていました。
歌が上手な人に向かって「イイ喉してるね~」と褒める習慣が元凶だ。だからみんな喉で声を出すと思い込む。「イイ腹してるね~」と褒めないといけない、と。
いいですねえ、「イイ腹してる」。
発声は、頭で考えながらコントロールするのではなく、体が適切に動くまでひたすら練習を繰り返す点で、楽器の演奏やスポーツに似ています。
日々のトレーニングで、あなたの技術は着実に高まっていきます。
トレーニングは「積み重ね」ですからね。
毎日のトレーニングで、良い声の「貯金」をしているようなものです。
もちろん、「正しいフォームで、適切なポイントを意識しながらのトレーニングであれば」という条件はありますが、トレーニングに割いた時間が「良い声貯金」として積み立てられていきます。
良い声をしっかり貯めていますか?
お腹で音程を取るトレーニングの分も、しっかり貯めていきましょうね。
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