●成長を積み重ねる3つのコツ
先日、新しい楽譜集をご案内しましたね。
届いた楽譜を手にした方から、こんなメールが届きました。
新品の楽譜を見て、発声も話し方も、
一からスタートするつもりで真剣に練習しようと思いました。
これからもよろしくお願いします。
すばらしい意気込みです。応援していますよ。
真剣な人を真剣に指導するのが私の生き甲斐ですから。
「一からスタートするつもりで」が大事な姿勢ですね。
いつもこの気持ちを持ち続けていられると、高度な技術を身につけることができます。
今日は良い機会なので、ずっと成長を積み重ねていけるコツを3つお話しします。
- 一からスタートする気持ちで
- 正確に練習
- 日に日に強化
●一からスタートする気持ちで
「一からスタート」の気持ちがあると、真摯な姿勢でトレーニングに取り組めます。
世阿弥の「花鏡」に、「初心忘るべからず」という言葉があります。
「習い始めた頃の、張りつめた謙虚な気持を常に失ってはならない、最初に思いたった一念を忘れてはいけない」という意味ですね。
トレーニングを始めてしばらく経つと、甘えや緩みが生じて、積み重ねを損ねてしまうことがあります。
ピリッと引き締まった姿勢で、丁寧にトレーニングしていますか?
声や話し方についての先入観や自己流の解釈が、素直なトレーニングを妨げてしまうことがあります。
また、しばらくトレーニングを続けていて、「(以前より)できるようになった」という自信がついてきた頃が危ない。
自信がつくのは良いことのように思えるかもしれませんが、良いことばかりではありません。
がむしゃらに学ぶ姿勢を妨げてしまう原因ともなりうるからです。
たとえば、人前に立って話すトレーニングの機会があるにもかかわらず、「もう3年もトレーニングをしている立場で、失敗したら恥ずかしい」と人前に立つのを躊躇するなら、そんな自負はマイナスです。
自負を持つとしたら、丁寧に上質な取り組み方をしているその「気持ち」に自負を持ちましょう。
●正確に練習
練習は正確におこないましょう。
練習の成果を最大化する、遠いようで最も近い道が、「言われたとおりに正確におこなう」。
逆に、成果を最も損ねてしまうのは何か。
多忙による練習不足ではありません。
「自己流のアレンジ」です。
効果的な正しいアレンジなら良いのですが、なぜかたいてい、まずいアレンジになってしまう。
練習の成果が上がらないと感じて方法をアレンジしてしまうケースが多いのですが、方法そのものではなく、練習の頻度だったり、重視する部分がズレていたりが伸びない原因であって、なのに方法そのものを変えてしまったら、どうにもならない。
「混ぜるな危険」の例にもあるように、別のメソッドを併用してみるなどやろうものなら、今までの積み重ねが台無しになってしまう。
練習を始めて間もないうちは、「言われたとおりにやっているのに、できない」と感じることもあるかもしれませんが、そのときは「本当に言われたとおりにやれているかな」と振り返ってみてください。
空手の道場で正拳突き千本、柔道で受け身の練習、剣道で竹刀の素振り千回……基本動作はきわめて大事。動作の正確さも、ミリまでは問わないにしても1cm単位で修正されます。
そんなときに、「なかなかうまくいかないから」と自己流のアレンジを始めてしまったら、永久に合格は出ないでしょう。
「素直な働き者が一番伸びる」とは、まさに真理ですね。
●日に日に強化
「日に日に強化」で、着実に成長を積み重ねていきます。
何を「強化」していくのかというと、「すべて」です。
少しずつ、少しずつでいいのですよ。
むしろ、ほんの0.1%ずつがいい。
あまり急激に強めてエスカレートさせていくと、無理がかかって元の木阿弥、「結局は元のまま」になりかねません。
心身のホメオスタシス(現状維持機能)に引き戻されないように、毎日0.1%のわずかな強化を積み重ねていくのがコツです。
練習の強度も、0.1%ずつ強めていく。
声や話し方に取り組む姿勢も、0.1%ずつ強めていく。
考え方の質、感じ方の質、振る舞い方の質も、0.1%ずつじっくり高めていく。
すべてが「話し方」には影響しますからね。
「話し方」は練習中やレッスン時だけではありません。むしろそれ以外の生活で何を考え、どう振る舞うかが肝心。
起きている間ずっと自分をモニターし続けて、気を引き締め、「自分に厳しく」し続けていきましょう。
多くの人は、逆のプロセスをたどります。時間の経過とともに、気が緩んで甘くなっていく。
それでは成長の積み重ねはできません。
毎日0.1%ずつ、手綱を締めていく感覚──といったら苦しそうですが、「日に日に整えていく」感覚です。
日に日に振る舞い方が上質になり、自分の「意識の持ち方」に対して要求が厳しくなっていく。
そして、その積み重ねを大切にすること。
積み重ねがあなたの財産となり、価値となります。
華やかでも見せかけだけのキラキラ光るメッキではなく、控えめながら確かに光る本物のいぶし銀のような魅力を身につけていきましょう。
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新潟市で共鳴発声法の話し方レッスン
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メール:tenor.saito@gmail.com
通る声、届く声の出し方の本