日本語の高低アクセントを攻略しよう(喉で音程を取らない)

●ポイントは「喉で音程を取らない」

日本語は高低アクセントの言語です。

だから私たちが話すときは、声の高低(ピッチ)をコントロールする必要があります。

英語のような強弱アクセントの言語とは、かなり事情が異なります。

英語の「desk」と日本語の「デスク」を比較してみましょう。

英語のほうは母音が「e」しかないので、ここが強く発せられます。日本語と比べて、自然に「気持ち長め」になりますが、長さは必須の条件ではありません。

短めに発しても、長~く「デェスク」のように発しても、意味の区別はない、ということです。

日本語の「デスク」は、「デ」が高く、「スク」が低くなります。ただし、「ス」が無声化するケースが多いので、感覚的には「デス」がかたまりで高く、「ク」で下がるように感じられるかもしれません。

英語の「desk」と日本語の「デスク」の顕著な違いは、前者が「強い母音」としてしっかり発せられるのに対し、後者の「デ」は強弱に関して無造作に発せられるところ。

「しっかり発する」と「無造作に発する」の違いは、どこに現れるか。

「音程の取り方」です。

しっかり発しようとすればお腹(横隔膜や腹部周辺の筋肉)を使い、無造作に発しようとすれば喉で音程をコントロールするようになります。

だから日本人は、喉で音程を取って話す「喉声タイプ」が多いのです。

 

●喉で音程を取らない、お腹で音程を取る

共鳴発声法で「喉で音程を取らない」感覚を身につけましょう。

声楽家や歌を習ったことのある方なら、指導者から「喉で音程を取らない!」「お腹で音程を取る!」と言われた経験があるでしょう。

世界中の声楽家たちが、修業時代にたいてい指摘を受けるこのポイントですが、私たち日本人は特に下手なのだそうです。

音高(ピッチ)の変化は、声帯の形状(長さ)を変化させることによって生じるので、この点を捉えて「喉で音程を取っている」と表現しても解剖学的には間違いではないかもしれません。

しかし発声的には、つまり「良い声で話す」という目的にとっては、間違いです。

声帯をコントロールするために、声帯をダイレクトに操作しようとすると、不適切な力みが生じたり、喉頭が上がったり咽頭腔がつぶれたりして、「声の質」が低下します。

意識するのは喉ではなく、喉を抜いた「上と下」。

この「下」がお腹であるわけですね。

 

●声の質がどう低下するか

今、「喉で音程を取ると、声の質が低下する」と言いました。

具体的には、どうなるのか。

二例挙げます。

まず、「生っぽい喉声になる」。

歌で高音が出てきたとき、「裏声に逃がさないで」と言われて喉で持っていこうとすると、苦しいような、平べったいような、幼いような、剥き出しのような、声になりますね。

それです。

もう一例は、「気の強さを思わせる鋭さを帯びる」。

早口のマシンガントークで、高アクセントがキュッと裏声ぎみになる話し方、分かりますか?

「だから、そう言ってるでしょ!?」

文頭の「だ」、「言ってる」の「て」、最後の「しょ」を思いきり高く、裏声ぎみに読んでみてください。

そう、この感じです。

お腹で音程を取るようになると、このような発声を卒業して、艶のある澄んだ大人の声を身につけることができます。

というより、お腹で音程が取れるようになってから、声を磨いていくんですけれどね。

 

●「イイ腹してる」が褒め言葉

ある声楽家がこんな話をしていました。

歌が上手な人に向かって「イイ喉してるね~」と褒める習慣が元凶だ。だからみんな喉で声を出すと思い込む。「イイ腹してるね~」と褒めないといけない、と。

いいですねえ、「イイ腹してる」。

発声は、頭で考えながらコントロールするのではなく、体が適切に動くまでひたすら練習を繰り返す点で、楽器の演奏やスポーツに似ています。

日々のトレーニングで、あなたの技術は着実に高まっていきます。

トレーニングは「積み重ね」ですからね。

毎日のトレーニングで、良い声の「貯金」をしているようなものです。

もちろん、「正しいフォームで、適切なポイントを意識しながらのトレーニングであれば」という条件はありますが、トレーニングに割いた時間が「良い声貯金」として積み立てられていきます。

良い声をしっかり貯めていますか?

お腹で音程を取るトレーニングの分も、しっかり貯めていきましょうね。

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声を聞く能力を高めよう(共鳴発声法)

●声は「好み」か

発声トレーニングをしたことのない方から、「良い声とか悪い声って、音楽と一緒で、最終的には好みの問題ですよね」と言われることがあります。

確かに、音楽と同じです。バイオリンの音でも「ハイフェッツよりオイストラフの音が好き」「私は絶対ハイフェッツ」という具合に、最終的には好みの問題になります。

ただし、あくまでも「最終的には」です。

そこに至るまでには、「良し悪し」が確実に存在します。

私が弾くバイオリンを聴いて、「ハイフェッツより、あなたの音のほうが好きだな」という人がいたら、それは好みの問題ではなく、「バイオリンを聴く耳ができていない」ということになります。

そこを「好み」で押し通してしまうと、物事が質的にレベルアップしません。

「好き嫌い」を持ち出されてしまうと、それ以上何も言えない思考停止に陥りますよね。

「みんなはやめておけって言うけれど、いいの。私は彼が好きだから」みたいに。

いや、こういうのはべつに好き嫌いで構わない。

しかし上質なものを目指すなら、習い事でもスポーツでも、「好み」を持ち出すのは最後の最後です。

何かの指導者なら、みんなよくご存じでしょう。

バイオリンの先生が生徒にダメ出しするとき、「好き嫌い」ではなく「良し悪し」で判断しているはず。

バイオリンの指導者が10人いて、ハイフェッツの演奏と私の演奏を聴いたら、10人が10人とも「ハイフェッツのほうが良い」と言います。

全員で示しあわせて基準を共有しているわけではないのに、確実にそうなります。

もし「あなたの音のほうが好き」なんて言う人がいたら、その人は残りの9人から「えっ!?」という目を向けられ、バイオリンのプロとしての信用をなくします。

いくら私が「最終的には好みの問題なんだから、この音でいいじゃないか」と主張しても、どうにもなりません。「だったらせめてもう少し高いレベルに達してから主張なさい」とたしなめられるだけでしょう。

発声も同じです。身体という楽器を使った演奏である以上、「良し悪し」が必ずあります。

 

●声を出すのも聞くのも職人芸

演奏家と同様、発声も一種の「職人芸」的なところがあります。

声色を使って物まねをする芸のことではありませんよ。

たとえば、声帯という発声器官は、肺からの呼気をできるだけ効率的に振動に変えるのが、良い使い方です。

あなたは声帯を使いこなせていますか?

スカスカ空気漏れはいけません。空気が無駄に漏れたら息も続かないし、「声の限界」が低くなってしまう。

ところが、空気効率が高まれば高まるほど、充実してパワフルな喉頭原音を持て余し、「強い声」「キツイ声」になってしまうことがある。

本来はそこで呼気コントロールと共鳴コントロールによって声質を使い分けるのが良い発声法なのですが、発声法を知らない人は「囁き声っぽい発声に逃がして和らげる」対処をしてしまいがちです。

歌で高音が苦手な人が、「あ、無理かも」と思うとすぐに裏声に逃がそうとするようなものでしょうか。

お手軽な対処法に逃がしやすいんですよね。

イメージでいうと、「絹糸のような声」は良い声、「綿菓子のようにふわふわして芯がない声」は良くない声。

声帯をちゃんと閉じつつ、呼気を適切にコントロールして、乗せる共鳴によって「声の色」を使い分けるのは、さしずめ職人芸です。

気の遠くなるほどの繰り返し(トレーニング)によって、技術を身につけていきます。

楽器の演奏もそうですね。「気の遠くなるほどの繰り返し」が不可欠です。

発声トレーニング、毎日していますか?

 

●出せる声のみ、聞き取れる

トレーニングによって良い発声ができるようになった人は、声を聞き分ける耳も手に入れます。

声は、自分で出せるようになって、はじめて聞き取れるようになります。

これが「出せる声のみ、聞き取れる」という法則です。

喉の開いた声が出せるようになると、他人の声を聞いて喉が開いているかどうかを聞き分けることができる。

横隔膜のコントロールができるようになると、他人の発声を聞いて横隔膜をコントロールしている様子を感じ取ることができる。

外国語を熱心に勉強した方なら、経験的に知っているでしょう。自分がナチュラルスピードでしゃべれるフレーズは、聞き取れる。「知識として知っているフレーズ」ではありません。音声として発することのできる言葉やフレーズです。

そういうものなんですよね、声は。

そのせいで、発声トレーニングを始めると、以前にあった「声の好み」が変わります。

「良い声」の感覚も、変わります。

今まで聞こえていなかった美点が聞こえるようになったり、今まで聞こえていなかった粗が耳についたりするからです。

「子供の頃は大好きだった歌手の歌が、聴いていられなくなった」と話していた声楽家がいました。

実は私も似た経験があります。

ATMやコンビニ入り口で流れる「いらっしゃいませ」などの合成音声について、発声の専門家が「不気味でしょうがない」と話していたのですが、私はべつに不気味とは感じなかったんです。

「う~ら~め~し~や~」みたいな台詞でもないのに、不気味とはどういう意味なのだろうと、むしろ不可解でした。

「またまた、大袈裟な」という感じ。

ところが、発声を学びトレーニングをするうちに、いつしか「違和感」を覚えて居心地が悪くなっていました。

「ちっとも大袈裟なんかじゃなかった。自分に聞き分ける能力がないだけだったんだ」と愕然としつつ、耳を手に入れたと嬉しくなったのを覚えています。

現代人は合成音声に耳が慣らされ、麻痺しているそうです。

「声を聞く耳の力」を取り戻すのも、発声トレーニングの効能ですね。

さあ、今日もトレーニングしましょう。

 

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通る声は相手を気持ちよくさせる(共鳴発声法)

●「通る声」は聞く人を気持ちよくさせる

今日は「通る声」の話をします。通る声は「良い声」の入り口だからです。

発声トレーニングにとって、声が通ればそれでいいわけではありませんが、良い声は必ず通ります。

なぜなら、「良い声」の条件に「安定した共鳴」があり、安定した共鳴によって声が通るようになるからです。

※「通る声」と「大声」は声質がまったく異なります。

ちょっと分かりにくいかもしれませんね。

具体的に説明します。

イ母音のみで古典歌曲を歌うとします。歌詞は歌わず、「イ~イ~イ~イイイ~」(O del mio amato benのつもり)という具合に、イだけでメロディーを歌います。

共鳴をしっかり捉えたイで歌えたなら、このときの声はよく通ります。

しかし、「このまましゃべれば良い声の話し方になるか」というと、まだまだ良い声には遠い。

楽器でいえば、レッスン初日に正しいフォームを教わったところ、という感じでしょうか。ここから「良い声」に磨いていくには、相当な量のトレーニングが必要です。

まあ実際には、「全部を良いイで歌いきる」ことができたら、それだけで「丁寧にトレーニングできている」証拠なんですけれどね。

●相手の脳に負担をかけない「気持ちいい声」

こうして共鳴を捉えた声は、よく通ります。

声の成分が豊かで倍音が多く、マスキング効果の影響を受けにくいからです。

ただ、この「充実した声」も、その充実感が安定していてこそ、「台詞としてちゃんと通る声」になります。

不安定に凸凹していたら、うまく通りません。

「おはようございます」と発するとき、一部しか充実していなかったら残りがマスキングされてしまい、「・はよ・・・・ま・」のごとく意味不明の台詞になってしまいます。

声の通らない人が無理にがんばって声を張り上げると、ちょうどこんな具合になりやすい。

「おはようございます」とすべてキレイに聞こえるのが理想的ですが、せめて「・はようござい・・」ぐらいまでは聞こえたい。

「・はよ・・・・ま・」でも、私たちの脳には音を補正する機能があるので、コンテクスト(前後関係や場の状況)の助けも借りて、なんとかコミュニケーションが成立します。

しかし、打ち消された音が多ければ多いほど、補正機能に負担がかかります。すなわち、ストレスになる。

雑踏の中で声を張り上げながら会話をするより、静かな喫茶店でおしゃべりするほうが、気持ちいい時間になるでしょう?

賑やかな場所から静かで落ち着いた場所に移動して腰かけたとき、ふ~っと一息ついて「あ~、疲れた」なんてしみじみ言ったことはありませんか。

声を張り上げて話したり、伏せ字だらけの相手の台詞を補正しまくりながら理解したりするストレスから解放された安堵感です。

つまりは、そういうこと。

通る声は相手を気持ちよくさせ、通らない声は相手を疲れさせる。

共鳴の技術を高めて、気持ちいい会話ができるようになりたいですね。

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話し声の改善に有効なトレーニング方法は?

●どんなトレーニングをしたら話し声がよくなるか

 

話し声を改善したい方から、こんなご質問があります。

「自分の話し声が嫌いです。話し声を変えるのに役立つトレーニングを教えてください」

答えは、「共鳴発声法による朗読」です。

その他のトレーニングは、「共鳴発声法による朗読」トレーニングを支えるためのトレーニングといえます。

逆にいうと、話し声の改善がうまくいかないケースが多い原因は、この「共鳴発声法による朗読」トレーニングが成功していないから、と考えられます。

今日は2つのポイントからチェックしてみましょう。

・共鳴感覚が分かっているか
・共鳴発声法を崩さずに朗読できているか

この2点です。

 

 

●共鳴感覚が分かっているか

 

朗読の際、眉間のあたりから共鳴の響きを逃さないのが基本です。

しかし、逃がさない以前に、共鳴感覚が捉えられていないケースが多い。

共鳴感覚を捉えるトレーニングには、イタリア古典歌曲を使います。

比較的高めで、しかし高すぎない音域(上のレ、ミあたり)でピーンという響きを捉える練習をしましょう。

最初は「イ」母音が簡単です。

喉開けや縦開きや横隔膜のコントロールは、この良い響きを楽に捉えるために必要な要素です。

また、話し声なのに歌でトレーニングするのは、「しゃべりで共鳴を捉えて逃さない発声は、母音が短くて歌より難しい」からです。

かといって、単に母音を「あ~~~」と伸ばすだけの練習では、シンプルすぎて話し声の繊細な変化とかけ離れているばかりか、退屈で長続きしません。

入り口は歌、そこから話し声へと移行しましょう。

歌そのものが楽しくなれば、しめたもの。もう良い話し声を手に入れたも同然です。

 

 

●共鳴発声法を崩さずに朗読できているか

 

次のポイントは、「共鳴発声法を崩さずに朗読できているか」です。

歌に比べて朗読(話し声)は、母音が伸びない分、粗が目立ちにくい。

だから、響きを逃して「ただ読むだけ」になっていても、自分では気づきにくいものです。

「親譲りの無鉄砲で──」(夏目漱石『坊っちゃん』)と朗読するとき、「むてっぽうで」の「ぽうで」あたりで響きを逃がしてしまっているのに、「むてっ」が力強く充実しているように感じると、それで満足してしまう。

共鳴感覚を常に意識して響きをキープし、有効なトレーニングをしましょう。

共鳴をちゃんと集めて捉えているかどうかは、レッスン(声のサロン)時に私が診断しますから、大丈夫です。

良い響きを捉えてキープできたときは、「今の声!」「イイ声!」「それ!」などと言いますから、そのときの感覚を体で覚えておいて、毎日の練習時に再現してください。

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通る声より「届く声」

●「それは通る声ではありません」

 

先日、「声のサロン」会員がこんな話をしていました。

「もっと声を細く出せるようになりたいんです。今はちょっと野太い気がして……」

さすがは声のサロン会員だけあって、声の捉え方が的確ですね。

人が大勢いる賑やかな場所で、場全体に向かって話す場合(司会者、幹事、発言者)、声が通るか通らないかが問題となります。

そんなとき、「楽に大きな声が出せたらなあ」と願いがちです。

実際、声の相談に来る方の半数以上が「大きな声が出せない」と悩んでいます。

おそらく、「周囲を圧倒するような、雷のようにとどろく大きな声が、無理せず楽に出せたら、声の悩みは解消するのに」と思っているのでしょう。

気持ちは分かります。「えっ?」と頻繁に聞き返されたり、「聞こえない。もっと大きい声で言って」と叱られたりすると、どうしたらいいか途方に暮れて、つらいですよね。

しかし、よく考えてみてください。

本当に「大声で話す」ことが望みですか?

静かな喫茶店で大声で盛り上がるグループや、至近距離なのにやたらと声を張り上げて話しかけてくる酔っぱらいに辟易したことがあるなら、その仲間入りをしたいわけではないでしょう。

大声を張り上げなくても、きれいな声が楽に通るなら、そのほうが良いのではありませんか?

周囲を圧倒するような大声? それは通る声ではありません。「やかましい声」です。

 

 

●「届く声」は薄く細い

 

確かに「通る声」というと、「聞こえればそれでいい」という印象があるかもしれません。

だから、「まわりの騒音に負けない大声を出せばいい」と思ってしまう。

でも、3m先にいる相手に向かって、10m先まで届く声を出したら、やかましくてしょうがない。

キャッチボールをイメージすると分かりやすいでしょう。目の前の相手に向かって、上手投げで全力でボールを投げつけておいて「届いたからいいだろう」では、ちっとも楽しくない。

そんなキャッチボール、怖すぎる。

「賑やかなら騒音に負けない大声を出せばいい」とは、そういう方針です。

あなたに必要なのは、「届く声」です。がんばらなくても、無理なく相手に届く声です。

そういう声は、一般に想像されるのとは逆に、「薄く細い」。

薄く細い声を共鳴発声法で出せたときは、最高です。得も言われぬ、イイ気持ちでしょう?

私など、「ずーっとこうしていたい」と思って、つい声を出し過ぎてしまうくらい。「歌声の会」で発声の気持ちよさを体験した方もいるかもしれませんね。

薄く細い声が遠くまで届くメカニズムは、ホースの先をつぶして水を遠くまで飛ばすのを思い出せば、分かりやすいでしょう。

つぶさずそのままのホースでは、近くにドボドボ落ちてしまう。

もっと遠くへ飛ばしたくて、水道を全開にしても、そんなに遠くまで飛ばないばかりか、大量の水を浪費してしまう。

水道を全開にしてドボドボやっている状態が、大声を張り上げる発声です。

エネルギーの無駄遣いでくたくたに疲れてしまいます。おしゃべりで盛り上がったり酔っぱらってくだをまいているときは、テンションが上がっているので自覚はありませんけれどね。

 

 

●スーッと届くから、きもちいい

 

共鳴発声法とは、つまりはそういうこと。

いかにホースの先を細くするか、です。

といっても、喉を詰めるのとは違う。喉が詰まったら、管楽器にゴミが詰まっているようなもので、いい声は出ません。

喉を開けながら声を細くするのだから、難しいんですよね。

そう複雑な操作をするわけではないのですが、やり方がつかめるまでは、とらえどころがなくて「どうしたらいいか分からない」。

それが発声法というものです。

「水道全開」のようにパワーで押す発声では、いい声は出ません。

がんばっているつもりでも届かない「そば鳴り」になり、もっとがんばれば「やかましい」と顔をしかめられる。

あなたに必要なのは、大声ではなく、通る声ですらなく、届く声です。

しかも、スーッと楽に届くから、話していて気持ちいい。

これからのレッスンで特に意識してほしいのは、「集めて、細く、薄く」。

「うまくできているか自信がない」とこぼす人がいますが、私がちゃんと発声診断をするから大丈夫ですよ。

レッスン時に「今の、いい声!」と言われたら、ちゃんと共鳴発声法になっている、ということです。

細く、薄く、集めましょう。

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名器を手に入れる言葉のレッスンとは

●言葉と声のトレーニングは「名器の入手」に等しい

ストラディバリウスといえば、言わずと知れたバイオリンの名器。

この名器を世界的なバイオリニストが手にすれば、ウットリさせる音色で私たちを魅了します。

しかし、どんなに優れたバイオリニストでも、バイオリンを手にしていなかったら、ただの人です。

実力があっても、その実力を発揮するための「道具」がなかったら、どうしようもありません。

「言葉」についても、同じことが言えます。

言葉はあなたの内面の表れです。

つまり、あなたの口から出てくる「しゃべり」は、内面そのものではなく、内面の「表現」(表れ出たもの)です。

バイオリンの例でいえば、バイオリニストの持つ演奏技術が「内面」。音楽を奏でるためのベースですね。

言葉と声は「実際に出る音や奏でる音楽」に喩えられます。

つまり、言葉と声の能力が高いということは、「優れた楽器を持っている」とも言えるわけです。

素敵ですね。言葉と声のトレーニングは、「名器の入手」なのですから。

世界的なバイオリニストでも、「弦が数本切れている」ような不完全なバイオリンは演奏できない。

言葉でいえば、「語彙が少ない」状態です。

プロのクラリネット奏者でも、管の詰まったクラリネットでは良い演奏はできません。

発声でいえば、「喉が詰まっている」状態です。

あなたがいくら素敵な「内面」を持っているとしても、その素敵な内面を実際に外に表し相手に伝えるための「表現」は言葉と声が担います。

質の高い言葉と声──まとめて「話し方」──はさしずめ名器です。

これから名器を入手して、磨きをかけていきましょう。

これから「ことば学講座」では、あなたが名器を手に入れるための、あなた自身を名器にするための言葉のトレーニングをパワーアップしていく予定です。

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あなたの言葉を「感じよく」するレッスン

●「感じのよさ」は価値

今月の魅力アップ講座は、「あなたの言葉を感じよくする方法」と題して、言葉のレッスンをします。

それも、会場でただ話を聞くだけでなく、自ら「言葉の作業」をするトレーニングの時間です。

「感じがいい」って、多くの人が思っているより、ずっと大事なんですよね。

「感じのよさ」とは、「価値をカバーするごまかし」「その場しのぎの姑息な手」ではありません。

感じのよさはひとつの価値です。

「感じがよくない」ことが原因でうまくいっていない場面がたくさんある理由は、「感じのよさはひとつの価値」と考えると、よく理解できますね。

あなたの話し方に、価値を加えましょう。

 

●言葉を置き換えていこう

実はすでに昨日、新潟会場のレッスンは終わっているので、受講者から「その後のトレーニングの様子」が届きだしました。

「言葉を感じよくする」には、今まで無造作に、疑うことなく使っていた言葉を、別の言葉に置き換えることになります。

「こんなふうにやっていいのか」「この方向の置き換えでは感じがよくならない」と感覚がつかめると、言葉の置き換えがどんどんできるようになります。

「ちょっと練習するだけで、こんなにうまくなるんだ」と驚くかもしれませんよ。

 

●感じのよさは内面から

「言葉を置き換えるだけでなく、本心からそう思う自分にならないと、本当のトレーニングではありませんよね」と話してくれた方がいます。

まさに、それがトレーニングです。

適切な言い方を思いついたとしても、本気でそう思っているわけではないとしたら、単に「口がうまい」「うわべだけの人」だけになってしまいます。

とはいえ、「聖人君子じゃないから、そんなキレイ事は言えない」と言いながら悪口や毒舌を吐くのは、違います。

断じて違います。

少し無理して、少し背伸びして、「今の自分にはちょっと気恥ずかしい」ような言葉でも使ってみることで、内面も変わっていきます。

言葉と内面は、本来ひとつですから。

さあ、言葉のレッスンを続けますよ。

 

 

いつの間にか成長──話し方はじっくり育つ

●時間をかけて育てた技術は本物

受講者のお一人が、こんな話をしてくれました。

「自分の話す姿を撮影してみたら、以前は震えるほど緊張していたのに、いつの間にか落ち着いて話せていました」

いいですねえ。成長を感じるとうれしいでしょう。私もうれしい。

「いつの間にか」は、話し方や発声のように「育つのに時間がかかる」ものの特徴です。

今日のトレーニングの成果が、明日実感できるわけではない。

それどころか、今週一週間分の成果も、来週に感じられるとは限らない。

それでも、年単位で見ると、明らかに違っている。

鍾乳石や珊瑚礁がゆっくり育っていくのに似ています。

逆に、「即席」は利かない。

即席の鍾乳石や珊瑚礁があったら、それは「偽物」ですよね。

発声や話し方も同じです。

じっくり時間をかけて育てた技は、本物です。

 

●時間さえかければ本物か

では、時間さえかければ必ず本物が育つかというと、そうはいきません。

鍾乳石は自然の摂理が最高の形に育ててくれますが、私たちの「技術」は調整を繰り返しながら慎重に積み重ねていく必要があります。

場合によっては「長い時間をかけて、良くない形を作り上げてしまう」こともあるから、正確なトレーニングが大事です。

テニスの素振り練習と同じですね。

不正確なフォームでラケットを振ったら、振った回数分だけズレを強めてしまいます。

ただがむしゃらに振るだけでは、かけた時間とエネルギーが活きないどころか、「練習をしないほうがマシだった」にもなりうるのです。

トレーニングで伸ばすための3カ条を挙げておきます。

・長い目で見て(成果を急がない)
・正確に(ズレを強化してしまわない)
・時間をかける(使えるスキマ時間を逃さない)

この三拍子が揃えば、着実に成果を積み重ね、成長していきますよ。

事も無げに乗りきろう(良い声を出すコツ)

 

●バタバタと忙しい時期こそ

年末年始や年度末、ほかにも仕事が立て込んでいる時期など、何かと忙しく、気持ちまでバタバタしやすい時期がありますね。

なんとかこの時期を乗りきりたいと、毎日がんばっている方も多いのではないでしょうか。

良い声を出すには、脱力が肝心です。

共鳴発声法のレッスンでいつもお話ししているように、「必死にがんばる」「力む」「気合を入れる」のは、無理がかかって、良い声になりません。

スポーツでもリラックスできているときに最高の成績を修めるように、声も楽にのびのびと出すときに最も良い声が出ます。

そのための意識の持ち方のコツを今日はお話ししましょう。

 

 

●大事なイベントほど「事も無げに乗りきる」

それは、超多忙な時期ほど、大事なイベントほど、「事も無げに乗りきる」。

あまりに気合を入れて、「全力でがんばるぞ」「燃え尽きるぞ」「最後までやり抜くぞ」と力むと、終わったときに本当に燃え尽きて、体調を崩したり、やる気を喪失したりします。

イベントをピーク(山の頂上)に設定すると、登頂時に目的を見失って気が抜けてしまうのです。

死ぬほど勉強して第一志望の進学先に入った学生や、夢にまで見た就職先に決まった新社会人が、翌月にやる気を失っている「五月病」は、まさにそんな燃え尽き症候群ですね。

いわゆる「打ち上げ」(イベント後に慰労の目的でワッと騒ぐ会)につながるような感覚も、燃え尽き無気力につながります。「やった、終わったあ!」とピークに到達した感覚を強めてしまうからです。

「打ち上げ」より、「反省会 & 次回の企画」を淡々と話し合って、いつものように過ごすのが、流れが途切れないコツです。

たとえばガラコンサートが終わったら、本番の興奮冷めやらぬ直後に、もう来年のために何を強化し、どんな練習をしていくかを考えている。

やがて高いレベルに到達する人は、そんな思考パターン、行動パターンを持っています。

「フェルマータ○周年」が実は何の一区切りにもならず、流れの中の一点にすぎないのと同じように、ガラコンサートが何かの区切りになるわけではない。

途絶えない流れの中の一日にすぎない。

「本番でがんばって良い演奏をしなきゃ」ではなく、「いつでも良い演奏ができる力をつけるためにふだんのトレーニングをする」「そうやって出せた力が今の実力」という感覚で、事も無げに当日を乗りきりましょう。

 

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【共鳴発声法】身体を楽器として鳴らす方法

●良い声で話せるかどうかは「習慣化」次第

良い声で話す共鳴発声法をしっかりマスターするには、練習を習慣化することが大切です。

たとえば、朝起きたら声を出す。
車の運転中に、声を出す。
電車の待ち時間に、声を出す。

自分の生活パターンに合わせたタイミングに、いつでもいいので、発声トレーニングを習慣化してしまいましょう。

習慣とは、つまり「考えなくても、がんばらなくても、当たり前のようにする状態」です。

歯磨きをするときに、いちいち理由や目的を考えませんよね。「虫歯にならないように、今日もしっかり歯磨きをするぞ」と考えながら歯ブラシを手にする人は少ないでしょう。

もし歯磨きの最中に誰かから「どうして歯磨きなんてするの?」と聞かれたら、「えっ?」と一瞬詰まるはず。理由など要らない習慣になっているから。

発声も習慣化しましょう。

すると、出る声や出しているときの感覚によって、その日のコンディションが分かるようになってきます。

「声がかすれる。声帯が少し腫れぼったいかな」
「昨日教わった共鳴の感覚が、やっと分かった気がする」
「声に伸びがない。喉が詰まっている感じ」

こんなふうに、体が「良い声、良くない声」をちゃんと教えてくれます。

毎日の習慣だから、分かるのです。週1回の練習では、こうはいきません。

今、朗読の練習を毎日していますか?

忙しかったら一日10分でもいいので、毎日「声と向き合う」時間を確保してみてください。

 

 

●体を鳴らそう

共鳴を集めて発声のポジションを高めて朗読をすると、「体が楽器のように鳴る」感覚がやがて分かります。

最初は高アクセント(高めの声)でピーンという感覚として感じられるはず。

その状態をできるだけキープして歌ったり朗読をしたりする練習を続けると、あなたの体が「鳴りやすい楽器」に育ってきます。

ただし、注意点があります。

「ピーンの感覚を出す」ことだけにこだわると、口の中をゆがめたり力ませたりして、「とりあえずピーン」を無理やり作ろうとしてしまいます。

これは良くないんです。

自分で聞いて分かりますよね。声の色が良くない。無理やりピーンを出そうとすると、やけに硬質な音になったり、母音が歪んで発語が不明瞭になったりする。

あくまでも「発声の基本」を守りながら出したピーンが本物です。

次回のレッスン日まで、たっぷり練習をしましょう。

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良い声の土台を作ろう……四股

●声だって、体が基本

言語戦略研究所の齋藤です。

良い声の基礎を成すのは、発声技術です。

喉を開けたり、横隔膜その他の筋肉を駆使して呼気をコントロールしたりといった技術によって、あなたの声は良くなります。

しかし、技術を支える土台は、体です。

オリンピックの体操選手だって、寝たきりになったら、前転だってできないのですから。

発声にとって特に有用な身体状態は、

・柔軟であること
・下半身が安定していること

この2つです。

今回は「下半身の安定」に役立つトレーニングをご紹介します。

 

●四股を踏んでみよう

四股(しこ)を踏んだことはありますか?

力士が土俵入りのときにする、脚を横に交互に上げる、あの動作です。

こんなに高く上げなくても大丈夫です。

私はずっと四股を踏んできました。相撲の動作としての四股は、中学校の相撲の授業のときだけですが、柔道部でも、学生時代の極真空手部でも、四股はトレーニングメニューの一つでした。

四股で鍛えられるのは、下半身の筋力と、股関節の柔軟性による「安定感」が大きいと実感しています。

下半身の筋トレとして優れているだけでなく、ちょっと気合を入れて繰り返せば有酸素運動としても優秀です。

本当は「声のサロン」のレッスン時に全員でおこなうトレーニングメニューにしたいくらいなのですが、四股を踏むには服装が限られ、なにより和服の私はできないので、各自の自宅トレーニングに任せます。

追求すると奥が深い四股ですが、まあ難しいことは考えず、片脚を横に持ち上げた姿勢を2~3秒キープ、反対側も繰り返す……という感じでやってみてください。

※声のサロンは、良い声で話せるようになる
 ボイストレーニング話し方教室(新潟市)です。
 日本発声協会が認定する話し方発声法の基本、
 共鳴発声法が学べます。
 平日コースと週末コースがあり、フェルマータを会場に
 月2回ずつ開催されています。

 新規に受講をご希望の方は、事務局(メイフェア)まで
 お電話(025-211-7007)ください。

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通る声、届く声の出し方の本

 

上達のコツは「そのまま体に入れる」

●頭で覚えるには限界がある

良い声の出し方を身につけるには、コツがあります。「体で覚える」ことです。

「そんなの当たり前」と思いましたか? 発声は技術ですから、体で覚えるのは当たり前。確かにそのとおりです。

ところが、ついふだんの癖なのか、「理屈で納得」しようとして、上達が遅れたり止まったりするケースがめずらしくない。

ちょうど今日、「声のサロン」受講者のお一人が、「何も考えずに体で覚えるのが楽しくて」と話していました。

「そのまま体に入れる」という最高のコツがどうやら体感としてつかめているようですね。その証拠に、非常に伸びがスムーズで、驚かされるほど。

頭で覚える「顕在意識型」は、扱える情報量に限界があります。体で覚える「潜在意識型」なら、扱える情報量が膨大です。

発声・話し方レッスンは、そのまま体に入れてください。

 

●今の感じが良い声!

「体で覚える」とは、たとえばどんな感覚なのか。

「喉を開ける」で説明しましょう。

「喉を開ける」という状態については、何度も何度もレッスン時に説明します。しかし、理屈を知ったとしても、喉が開くわけではない。

声を出していて「今の声! 今のが喉の開いた声!」と指摘されたときに、そのときの体の感覚を覚えて、いつでも再現できるようにするのです。

言ってみれば、「喉を開けるって、どんな感じ?」と知ろうとするのではなく、「今の感じが開いている状態!」と言われたときにその感覚で覚えようとする。

「できる」のが先です。できてから、「あ、これか」と分かる。初めて泳げたとき、初めて自転車に乗れたとき、初めて逆上がりができたとき、いつもそうだったでしょう?

理屈で理解できてから、できたのではない。膨大な情報量を体が勝手に処理してくれて、先に「あ、できた!」が起こる。理屈は後から「なるほど、こうしたから、できたのか」とついてくるし、別についてこなくても構わない。

たぶん今でも、自転車に乗れる理由が説明できない人のほうが多いでしょう。

良い状態を体が覚えると、「今のがいい状態」「今のが良い声」と言われる場面が少しずつ増えてきます。

そのときの自分の体の状態を、そのまま体に染み込ませていきましょう。

上達のコツをお話ししました。

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いい声で話すコツ──練習量を増やそう

●練習は裏切らない

以前にここでも「練習は裏切らない」という言葉を引き合いに出して、練習量を増やしましょうとお伝えしました。

練習は、習慣です。
ある日急に思い立って、声が嗄れるまで何時間も練習したって、翌日にへばって声が出ないようでは、練習になりません。

気分の盛り上がりとは無関係に、習慣的におこなうのが練習です。そうであってはじめて練習効果の積み重ねになります。

レッスンを受けて伸びる人は、いわゆる「素直な働き者」で、正確なトレーニングをコツコツと真面目に続けます。

「真面目だけが取り柄ですから」と話していた方がいます。真面目は最高の取り柄です。私も「真面目な人に教えたい」なんて話したこともあります。

真面目なタイプは一点集中で真剣に取り組むので、確実に伸びます。自分の感覚や思い込みに囚われず、新しいことをパッと取り込んで「染まって」いけるのも特徴です。

そして、なんといっても、「ちゃんと練習する」。だから伸びるわけです。

課題が難しいと感じたら、練習量を増やしましょう。朗読課題が「うわ~、なかなか覚えられない」と思う暇があったら、もう一度読みましょう。

「できない」「難しい」と口にする人ほど、練習量が少ないものです。「30回くらいで、なんとなく覚えられるものですよ」と聞いても、10回程度で「いやあ、なかなか覚えられないですね~」と弱気な言葉を口にし始める。

脳の仕組みからして、新しい技能を身に着けるとき、「繰り返し」は必須です。

繰り返しこそ、練習です。
繰り返しこそ、準備です。

練習量を増やしましょう。イヤというほど、イヤにならずに、ひたすら繰り返し練習したら、本番はちっとも怖くない。

そういう体験を積み重ねていきましょう。

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共鳴発声法のトレーニングに朗読は必須

●朗読の技法

こんなご相談がありました。

「朗読なら良い声で読めるのですが、ふだんの会話がダメなんです」

わかります。できあがっている文章を覚えて声に出すのであれば、自信をもって良い声で「演じる」ことができるのでしょう。

なのに、その場その場で考えながら、反応しながら口に出す「会話」はどうしても口元の声、喉声、ナマっぽい幼稚な声になってしまう。

そんな声を「地声」と呼ぶ人もいます。「地声」は正式な発声用語ではないので、どんな発声を指しているかをその都度確かめる必要がありますが、良い声ではないナマっぽい感じ、野太くて低めの声を指している人が多いようです。

しっかり練習した「商品の説明」は、良い声で話せる。なのに、厳しい指摘などが飛んできたときに「すみません」と口走る声が口元の太い声になってしまうとしたら、共鳴発声法の型ができていないから。

共鳴発声法で話せるようになるには、朗読練習によって体に型を教え込む必要があります。

本番で少々慌てても、逆に緊張がゆるんでも、体が型を覚えていれば、崩れません。まるで形状記憶合金のように、気を抜いてもちゃんと良い形に戻る。

そのための「朗読レッスン」に、これから入ります。

 

●「声色」は使わない

朗読では、「声色」は使いません。「声色」(こわいろ)とは、いわば物真似のこと。

登場人物が女の子ならキャッキャッと女の子らしい声を出し、ネズミが出てきたら奇妙に甲高い声をキーキーと出し、ゾウが出てきたら低~い声での~んびり話すことでキャラ設定をするようなのは、声色であって朗読ではありません。

たとえば、夏目漱石の『坊っちゃん』の冒頭に、「いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい」という台詞が出てきます。

ここを読むとき、あまりに気分を出して、挑発的に、バカにした調子で声を歪ませて「よ~わむ~しや~~~い」のように読むと、朗読としては少々不自然になります。

過剰な声色のせいで、聞き手が物語の世界から抜けてしまうのです。

登場人物をイメージしながら読めば、自然に「なんとなくそれっぽい印象を抱かせる」話し方にはなりますが、最小限に抑えて、聞き手の想像の余地を損ねないようにしましょう。

さあ、共鳴発声法で朗読しますよ。共鳴発声法という「声の型」を染み込ませましょう。

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上手な「断り方」が自分の時間を増やしてくれる

●上手に断る方法を教えて

「断り方」に悩んでいる方は少なくありません。

「飲み会への参加を断る上手な断わり方を教えてください」と「会話に関する質問」に書いてくれた方もいますね。

特に自分の大事な取り組みがある人にとって、時間を奪われてしまう「あまりプラスにならない会合」には参加したくないのが本音でしょう。

冬になると、忘年会やら新年会などが増えて、相談を受けるケースが増えてきます。

断り方の原則として、次の3つを守ってみてください。きっとうまくいきますよ。

  • 言葉はやわらかくても、態度は断固として
  • 一貫性を持たせる
  • 否定しようのない理由を添える

たとえば、「忘年会への参加を断る」とします。

「出たくないんです」のようにストレートな言い方では、角が立ちます。

「え、なんで?」と聞かれますよね。それが面倒くさくて、しょうがなく参加してきたのでしょう?

言葉はやわらかく、が原則。ただし態度まで「えぇ~っ、でもぉ……どうしようかなあ……」なんてやっていると、「迷える程度の理由で断ろうとしているのか」と不審に感じさせてしまいます。

また、「一貫性」はきわめて重要です。「一貫性を持たせるための説明」を考えましょう。

「お酒を飲みたくないので、上司にそう言ったら、乾杯だけは付き合いなさいと言われて、それ以来ドタキャン」

ドタキャンなんかして大丈夫ですか? 繰り返したら余計に叱られるでしょう。

「飲みたくない」なんて理由がよくないんです。一貫性を持たせるためには、「体質的に飲めない」のような永久に使い続けられる理由を伝えないと、次回以降ずっと新しい口実を考えなければなりませんよ。

うっかり乾杯に付き合った回があったなら、今さら「体質的に」は使えないので、「ドクターストップで」あたりが使えます。

理由を聞かれても「はい、ちょっと……」で濁せます。

こういった理由に対して「そんなの大丈夫でしょ」と無理強いする人はいないでしょう。

まあ実際にはいますが、そういうケースはまた次の手を考えればいい。

まずは原則を押さえておきましょう。

最後に「否定しようのない理由」として、たった今すごく良い例が届いたので、ご紹介しますね。

> 所属している部署の忘年会に参加する予定にしていました。
> 退職される方がいるので送別会も兼ねるのかな、
> と思ったためです。
>
> ところが送別会はあらためて行うと知ってから、
> 不参加に変更しようか迷っていました。
> 仕事も忙しいし、お酒の席は好きではないし、
> 気持ちいい会話が飛び交う場になりそうにもない。
> でも、今さら断りにくい上に、20名弱の組織で女性が5人だから、
> 私が行かないとなんとなく会が寂しくなるかな、
> などといろいろ考えていました。
>
> ところが、誰に聞かれても堂々と言える偽の急用を思いついたのです。
> 「妹に頼まれて赤ちゃんの世話にいく」です。
> とたんに心に余裕ができ、あっさりと断ることができました。

なるほど、うまいですね。
「妹に頼まれて赤ちゃんの世話にいく」という口実に対して、「べつに行かなくてもいいでしょ」とは誰も言えません。

ほかに似た──汎用性の高い──口実に「親の介護」があります。

個人の都合や好き嫌いにとどまらない、他者が関わる理由で、しかも古典的な「不幸があって」と違って何回でも何年にもわたって使える点で秀逸です。

「親なんかいいじゃない。一晩ぐらいほうっておけば」とは誰もいえませんよね。

 

●「来られないんでしょ?」と言われたら大成功

おもしろいもので、こういった会合(忘年会やら新年会やら)が積極的に好きな人は意外に少ないようです。

大人になればなるほど、「時間がもったいない」と億劫に感じるようになるらしい。

なのに、「毎回いちいち断る口実を考えるのが大変だし、断ると迷惑をかけているかも、どう思われているのかな、と考えてしまうのがストレスだから、仕事のうちと割りきって参加している」人が多いようです。

一部の人たちがわ~っと盛り上がると「みんながそう」に見えるんですよね。「みんなが年末の忘年会を楽しみにしている」と。

でも、実際は違う。

マスメディアが取材したりニュースになったりする物事を考えれば、「目立って見えるのはむしろ一部の特殊な人たち」とわかる。

ハロウィンの夜には若者がみんな渋谷に集まるように錯覚するし、年末年始には日本人みんなが大きなスーツケースを転がして成田空港にいるように見えるし、ゴールデンウィークの終わり頃には日本人がみんな高速道路の上でイライラしているかのように思える。

しかし、若者の大多数は渋谷に集まらないし、日本人の大多数は年末年始に日本にいるし、日本人のほぼ全員が高速道路以外の場所にいる。

「風潮」に飲まれることなく、素敵な時間を確保したいですね。

こうして話し方や発声、コミュニケーションを学び、トレーニングをしているあなたにこそ、「波風を立てずに、風潮に合わせる」のではなく、あえて多少の波風を立てたとしても、素敵な時間を確保できるように「断わり方」の技術を高め、しかも実践していただきたい。

毎回「断わる口実を考えるのが面倒」なのは、なんとなく風潮に飲まれて参加したりしなかったりと揺れるから。

最初から「来られないんでしょ?」と聞かれるようになったら、うまい「断わり方」が功を奏している、ということです。

毎回律儀に参加している人ほど、よんどころない事情での欠席なのに「義理を欠く」「こういう場には出なさい」などと責められ、出ないのが当たり前になっている人は、「お世話になった方の送別会だから挨拶だけ」と顔を出したら「律儀ですね。ご丁寧にありがとうございます」なんて喜ばれる。

なにより、大切なトレーニングに充てる自分の時間を毎日確保できるようになるのがプラスです。

みんなが酔っぱらって騒いでいるような場に身を置くより、素敵なお茶会で素敵な会話のトレーニングをするほうが話し方の指導者としてもオススメです。

「断わり方」──気にしてみてください。

「えっ、今回も来られないの? なんで?」はまだ断わり下手。最初から「来られないんでしょ?」と聞かれるようになったら、真の断わり上手といえるでしょう。

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