伝わりやすい話し方 vs. 癖のある話し方

●「気づきがありました」

先日、こんな質問がありました。

> 「気づき」という言葉は辞書には載っていないのに、
> 職場でよく使われています。
> どういう言葉なのでしょうか。

確かに、ここ数年よく見聞きするようになった言葉ですね。

「先日の勉強会に参加して、たくさんの気づきがありました」のように使われます。

「気づいたことがたくさんありました」
「勉強になりました」
「発見がいくつもありました」

といった表現なら不自然な響きはありませんが、「気づき」は確かに妙な引っかかりがあります。

それもそのはず、自己啓発の分野で使われだした独自の用語だからです。

ついでなので、ちょっと日本語の勉強をしましょうか。

動詞の連用形を「動詞の名詞化」として用いるのは、日本語の一般的な用法です。

「走り」「学び」「○○集め」のような用法ですね。

先ほどの「引っかかり」もそう。

「踊り」「試し」あたりになると、「動詞の連用形」の香りはなくなり、完全に名詞になりきっていますね。

だからといって、何でもかんでもこの調子で名詞化して通じるわけではなく、「俺の“泳ぎ”を見せてやる」なら自然ですが、「俺の“食べ”を見せてやる」はおかしいでしょう?

「泳ぎ」は連用形からの名詞化として定着していますが、「食べ」は定着していないからです。

この場合、「食べっぷり」と別の言葉に置き換えれば、さほど不自然でない話し方になります。

同様に、最近たまに見聞きして、そのたびに頭の中で変換が滞るのが「見える化」。

でもこれは、日本語の造語法から完全に外れており、明らかに特殊な言葉と分かるので、「……と私は呼んでいます」程度の用語と解釈して流せます。

「可視化では堅苦しいので、分かりやすく“見える化”と呼んでいます」と説明されたら、なるほどと納得できるでしょう。

ところが「気づき」は、どことなく普通名詞っぽい雰囲気を漂わせているから、余計に違和感があるのでしょうね。

「気づき」に引っかかるその感覚、良い言語感覚だと思います。

もっとも、語彙はこうして少しずつ変化していくので、もしかして30年後には、ごく自然な言葉として日本語の仲間入りをしているかもしれません。

良い話し方は、「伝わりやすい話し方」です。「癖のある話し方」に気づいたら、自然な言い方に言い換えるトレーニングをしてみましょう。

わざと癖のある言い方で引っかかりを作り、何かを伝えようとするテクニックもありますが、上級者向けです。

ほかにも何か、言葉に関する“気づき”があったら、ぜひ聞かせてください。

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